私の命はあなたの命より軽い

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小説情報

タイトル:私の命はあなたの命より軽い
著:近藤史恵
出版社:講談社

とう子の小説紹介 私の命はあなたの命より軽い

臨月を間近に控えた遼子の夫が、半年間のドバイ赴任を命じられるところから、物語は静かに動き出します。

職場結婚後、当然のように別部署に回された遼子。夫の出張についても、上司は「出産に男はいても役に立たないだろう」と笑い、夫自身も「希望を言いすぎれば出世に響く」と、遼子の本音には向き合おうとしない――そんな現実が淡々と描かれます。

遼子は、築一年に満たない実家の新居で、里帰り出産をお願いしようとします。
けれど、母からの返事は思いがけず歯切れの悪いものでした。

いざ戻ってみると、何かが少しずつ、けれど確かに、ずれているのを感じます。
孫の誕生を喜ぶ気配のない両親、どこか距離を取るようになった妹。
以前と変わらないようでいて、何かが決定的に違う。

やがて「妹の友人が自殺したらしい」と耳にします。
妹の様子がおかしいのは、それが理由なのかと考える遼子に、妹はぽつりと「みのりは……自分の家で死んだ」と告げます。

「みのりは……」
では、他に誰が、どこで死んだというのか。
遼子の胸に、不安がかたちを持ちはじめ、後悔がじわりと広がっていきます。

父と妹が口論になったとき、妹が叫んだ言葉。
「あんたも、さっさと死んじゃえばよかったのに」
あんたも? 誰? 誰のことを言っているの?

私は、何も知らされていない。
けれど、確かに、知らなければいけない何かがある。

家族という静かな密室のなかで、「命の重さのちがい」がじわじわと浮かび上がってきます。
「命の重さ」とは何か。
誰にとっての命なのかによって、その重さが変わってしまうのではないか、という問いを私たちに投げかけてくるのです。

家族とは、居場所とは。
真綿のように締めつけてくる静かな狂気と、心の奥を刺すような読後感のある一冊です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
またふらりと、遊びにきていただけたらうれしいです。

2025.6.8